坂本大氏と、シリコンバレーと日本をつなぐ回廊
Benhamou Global Venturesのパートナー坂本大氏。京都にオフィスを置く米国ファンドから見た、日米ベンチャー回廊の実像を追います。
Benhamou Global Ventures(BGV)は、中核拠点として米国、フランス、イスラエル、インド、そして日本の五つを挙げています(BGV)。日本をカバーしていると言う米国のファンドの多くは、年に数回の出張とカンファレンスのバッジでカバーしています。日本を中核拠点に数えている例は多くありません。
坂本大(Mas)氏はこのファンドのパートナーで、Tech for Impact Summit 2026に登壇しました(登壇者ページ)。仕事の場所はシリコンバレーと日本のあいだにあります。その回廊が実際に何でできているのかは、氏の経歴を追うとよく分かります。
BGVという会社
BGVは2004年にエリック・ベンハモウ氏が設立し、同氏はFounder & General Partnerを務めています。3ComとPalmのCEOを歴任し、IT業界での経験は40年を超えます。IPO8件、M&A37件に関与し、25社以上の取締役を務めました。うち11社は上場企業です。INSEAD、スタンフォード、IDCヘルツリーヤでアントレプレナーシップを教えた経歴もあります(BGVチーム)。
ファンドはAIネイティブのエンタープライズ向けスタートアップにアーリーステージで投資し、ターゲット領域をEnterprise 5.0と呼んでいます。ポートフォリオは60社超、イグジットは30件超で、うち12件がIPOです(BGV)。
自己紹介にはこういう一文もあります。「私たち自身が、この道を歩いてきたオペレーターです。」投資テーゼの説明というより、パートナーが何者かの説明です。拠点の並びは、テーゼよりもこちらで説明がつきます。
出資を受ける側は、どのパートナーが取締役会に入るのか、その人が何を経営してきたのかを聞いてください。
NECからパートナーへ
BGVは氏の役割を一文で書いています。シリコンバレーのプラットフォームと日本のテクノロジー・エコシステムをつなぎ、日本へ進出するポートフォリオ企業と、AIネイティブなスタートアップと向き合う日本企業の双方を支援する、というものです(BGVチーム)。
坂本氏は2018年にBGVに参画しました。それ以前はNECで長く要職を歴任し、ソリューション事業グループのグループバイスプレジデント、経営企画・マーケティング担当のバイスプレジデントなどを務めました。Vidient SystemsとNiteo Partnersの取締役、Harvard Business School Association of Northern Californiaの理事・事務局長も経験しています。慶應義塾大学経済学部を卒業し、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得しました(登壇者ページ)。
エンジェル投資家でもあります。Bedrock Robotics、Invia Robotics、Marble Robot、Glydways、Mission Barns、Copado、SKUChain、LUUM、Genia、Ekso Bionicsなどが並びます。京都大学、青山学院大学、UCバークレー、NYUでの客員講師の経歴もあります(同ページ)。
NECでの年月があるので、日本の大企業がどこで意思決定するのかを内側から知っています。そのうえにベイエリアでの年月が乗っています。
橋は人でできています
プロフィールには、Bay Angels、YNext Incubator、Plug & Play、そしてJ-Startupプログラムと連携したAlchemist Acceleratorでのアドバイザリー経験も記載されています(登壇者ページ)。
J-Startupは経済産業省の選定プログラムです。ベンチャーキャピタルやアクセラレータ、イノベーションの担い手が推薦した企業を選び、官民で支援します。海外展開の柱があり、JETROのグローバル・アクセラレーション・ハブや国際的なテックイベントへの出展がそこに含まれます。選定企業は約200社です(J-Startup・経済産業省)。
このプログラムと連携してアクセラレータがコホートを回す。これが橋の具体的な形です。日本の起業家が独力なら2年かかる米国の顧客に、コホートとデモデーを通じて届きます。その場には、両側を翻訳の損失なしに説明できる人がいます。同時に、これがこの経路の制約でもあります。年に何社通せるかは、その人たちが実際に手を回せる数で決まります。
日本側は目標を数字で書いています
2022年に内閣官房が公表した「スタートアップ育成5か年計画」は、日本のスタートアップへの投資額が2017年の3,600億円から2021年の8,200億円へ伸びたと記し、2027年度に10兆円規模とする目標を掲げています。あわせてユニコーン100社、スタートアップ10万社の創出を目指すとしています(内閣官房・PDF)。
シリコンバレーの回廊に直接効く施策も入っています。起業を志す若手20名を選抜してシリコンバレーに派遣する事業について、派遣規模を5年間で1,000人規模に拡大するとし、シリコンバレーとボストンに日本のビジネス拠点を新設するとも書かれています(内閣官房・PDF)。
20人から1,000人へという方向は妥当です。ただし単位が違います。ベイエリアで時間を過ごした起業家が1,000人いることは、人材の層としては意味があります。日本のラウンドの価格を実際に決めるのは、米国の投資家や顧客との関係のほうです。そしてその関係は、いまのところ少数の個人が持っています。
東京でのセッション
Tech for Impact Summit 2026で、坂本氏はストラテジー・ダイアローグ「Capital Without Borders? How US, European, and Japanese Investors Are Navigating the New Geopolitics of Innovation」に参加しました(セッションページ)。
公開されているセッション説明は主題をこう置いています。関税交渉と輸出管理のもとで米・欧・日の回廊を動く資本。そして、同等のIPを持つ米国企業と比べて、日本のスタートアップの評価額が低くとどまるという価値と品質のミスマッチ。ダイアローグ自体は招待制かつオフレコだったため、ここで書けるのは公開された説明文と公開情報だけです。
その背景にある問いはクロスボーダー資本と評価額のギャップの記事で別途扱いました。政府間の資金と過去最高の評価額があっても、目の前の日本の起業家に提示されるタームシートは別の話だ、というのが要点です。
ここから読み取れること
米国のファンドが日本のディープテックを自動的に見つける仕組みはありません。両側を知っている個人がいるだけです。クロスボーダーの投資家に会うときは、その人がチームにいるのか、取締役会に入るのは誰かを聞いてください。
坂本氏のNECでの年月は、日本の事業会社がミーティングに応じる理由であり、米国のポートフォリオ企業が日本の顧客で実際に助けを得られる理由でもあります。
5か年計画の目標年度は2027年度です。投資家と起業家のあいだの信頼は、それより長い時間をかけて積み上がります。個別のディールでは、10年この回廊を歩いてきた人のほうが、集計された数字より効きます。
Tech for Impact Summit 2027 は2027年5月18〜19日、東京で国連大学との共催で開催します。米・欧・日の回廊で会社を運んでいる人たちに、会場にいてほしいと考えています。招待制のサミットです。tech4impactsummit.com/apply からウェイトリストにご登録ください。