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日本のペロブスカイト太陽電池、いま実際に建っているもの

ペロブスカイト太陽電池には補助金と工場と日程があります。経産省が確定させた金額、積水化学が堺で建てているもの、まだ証明されていない部分を整理します。

Macro close-up of a silicon wafer, its grid of rectangular dies catching the light in bands of pink, green and blue

大阪府堺市、シャープの本社工場から譲り受けた建屋の中で、100MW規模のペロブスカイト太陽電池製造ラインが2027年4月1日に稼働を開始する予定です。この日付と能力は、積水化学工業が2024年12月26日に公表した取締役会決議で確認できます(積水化学工業)。

国が確定させた金額

資金の出どころは三つあり、規模はまったく違います。

最も大きいのは経済産業省の「GXサプライチェーン構築支援事業」です。積水化学は2024年12月26日、その前日の採択決定を開示しました。条件は日本の補助事業としては珍しく具体的です。補助率2分の1、補助対象経費の総額3,145億円、補助金総額1,572.5億円、生産能力はGW級、補助対象期間は2024年11月から2029年2月末まで(積水化学工業)。

二つ目はNEDOのグリーンイノベーション基金「次世代型太陽電池の開発」で、日本語のプロジェクトページには事業規模の上限として1,051億円が示されています。NEDOは発電コストの目標を設定しています。単接合で14円/kWh以下、タンデムで12円/kWh以下かつ変換効率30%以上(NEDO)。同じ事業の英語ページは、コストパリティの目標年を2030年としています(NEDO)。

三つ目は最も小さく、最も新しいものです。財務省が公表した2026年度のGX経済移行債・充当候補事業一覧には、ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデル創出の推進として70億円が計上されています(財務省)。同じ一覧でAIロボティクスの基盤モデル開発に3,873億円が付いていることを考えると端数のような額ですが、実際の建物に載せる段階を支えるのはこの行です。

一方で、ギガワット単位の導入目標と達成年を明記した公表資料は、私が確認できた範囲では見つかりませんでした。最も近いのは積水化学の開示で、同社が前提とする政策目標を「政府が目指す2030年までの早期のGW級の供給体制構築」と記述しています。流通している数字の多くは、この一文より後ろに出典がありません。

なぜフィルム型なのか

国際エネルギー機関によると、中国は太陽光パネルの全製造工程で80%を超えるシェアを持ちます。ポリシリコン、インゴット、ウェハーでは95%近くに達する見込みです。新疆ウイグル自治区だけで世界のポリシリコン製造能力の40%を占めます(IEA, Solar PV Global Supply Chains, 2022)。日本が公費を投じているのは、軽くて曲げられるフィルム型です。

2026年にシリコンで国内チャンピオンを立てるのは、意図的に損を出す判断になります。フィルム型ペロブスカイトは製品も設置条件も別物です。軽くて曲がるので、ガラスモジュールを載せられない屋根に載り、そもそも太陽光の候補ですらなかった垂直面に貼れます。

日本の土地制約を考えると、効いてくるのは設置可能な面積です。積水化学が最初の市場として挙げているのは、耐荷重性の低い屋根と公共部門、とくに災害時の避難所となる体育館で、その後に民間の工場・倉庫の屋根と外壁へ広げるとしています。

一社が契約した内容

積水化学は2024年12月26日の取締役会で量産化を決議しました。事業主体は積水ソーラーフィルム株式会社で、2025年1月6日設立、資本金1億円、株主は積水化学86%・日本政策投資銀行14%です。投資総額は補助金込みで900億円、建物購入費と100MW製造設備の設備費に充てられます。販売は2025年度に現有設備で開始、本投資による設備の稼働開始日は2027年4月1日、GW級ラインは2030年の目標です。

2026年3月27日、同社はブランド名「SOLAFIL」で事業開始を発表しました。現有設備による製造技術の確立と、金属屋根を対象とする製品・設置仕様の準備が完了したという内容です。2026年度は現有設備による限定的な生産量であること、2027年度の100MW規模生産ラインの立ち上げを最優先とすることも明記しています(積水化学工業)。

2024年から実証を重ねてきた企業が、2026年に「限定的」と自ら書く量で最初の製品を出しました。生産能力は2027年の100MWから2030年のGW級へ、3年間で10倍にする計画です。

買ったのは建物ではなく、動いている工場です

日程の理由は、同じ決議の中にあります。堺で譲り受けたのは建物だけではありません。電源設備と冷却設備も一緒に引き取っています(積水化学工業)。

工場で時間がかかるのは、この二つです。負荷に見合った受電設備と、それに合わせた冷却設備は、年単位の仕事になります。すでに備わっている工場を買うというのが、100MWのラインに2027年という日付が付いている理由です。

決議は、補助金が何に使われるのかについても率直です。技術は一定の水準で確立しており、2025年の事業化は現有設備で行う方針だと書かれています。課題として挙がっているのは、製造コストの低減と、それを可能にする生産能力の拡大です。買っているのは発明ではなく、量です。

同じ日に契約も二つ結ばれています。建物売買契約に伴うシャープとの基本合意と、新会社の共同運営に関する日本政策投資銀行との株主間契約です。決議には、海外展開も視野に入れ、段階的に増強投資を行って2030年にGW級の製造ラインを目指すとも書かれています。

実証の一覧が想定市場を示している

積水化学が公開している実証の一覧は、フィルム型ペロブスカイトの行き先を最もはっきり示しています。銀行の店舗と研修施設、防音壁、風車タワー、学校体育館の屋根、神戸空港、水田での営農型発電、そして壁面設置に向けた改良工法の開発(積水化学工業・ペロブスカイト関連ニュース)。

挙げられているのは、企業や自治体がすでに管理している屋根や壁です。フィルム型ペロブスカイトが向かう市場はここで、洋上風力や系統用蓄電池が競っている市場とは別物です。

数字が語っていないこと

NEDOはコスト目標の達成年を2030年に置いています。現時点の達成値としては読めません。フィルム型ペロブスカイトが現時点でグリッドパリティにあることを示す公開資料はありません。補助対象経費3,145億円に対する補助率2分の1は、最初のギガワットが自立した採算からどれだけ離れていると見込まれているかの目安になります。

もう一つの論点は屋外での寿命です。屋外寿命を判断できる公開データはまだ少なく、耐久性が低いと結論づけるだけのデータもありません。シリコンモジュールは数十年の実地データの上に長期の出力保証を載せて売られています。ペロブスカイトにはその蓄積がありません。上に挙げた実証のいくつかは実際の建物で1年以上稼働しており、蓄積はそこで作られます。研究室の効率記録より、こちらのほうが見る価値があります。

補助対象期間は2029年2月末に終わります。採択の前提であるGW級の生産能力が存在している必要がある期日で、2027年のライン稼働と2030年の目標の間に位置します。

見ておくべき指標

堺の100MWラインが2027年4月1日に立ち上がるかが最初の検証点です。次は、補助対象期間が終わる2029年2月までにGW級の生産能力ができるかを確認します。

日本は、自国が先行し中国が既存の座を占める技術で、製造ラインを作るために公費を投じています。GXプログラムが供給側を支え、GX-ETSが国内需要を増やします。


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