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TSMC熊本、第2工場が問うのは水と系統の収支

TSMCの熊本工場は熊本県地下水保全条例の下にある。JASMは採取量以上の涵養を約束し、第2工場が動けば取水は年800万トンへ。九州の系統も同じ問いを抱える。

Close-up of microchip dies on a silicon wafer

熊本の半導体クラスターの話は、たいてい設備投資額と雇用の話で終わります。ここでは別の二つの数字を追いかけます。地下水と、送電網です。

JASMの第1工場は2024年2月24日に開所し、同年末の量産開始を目標としていました。出資比率はTSMC 86.5%、ソニーセミコンダクタソリューションズ 6.0%、デンソー 5.5%、トヨタ自動車 2.0%です(TSMC)。第2工場は同じ月に発表され、2工場合計で月産10万枚超(12インチ換算)、総投資額200億米ドル超、2024年末までに着工し2027年末までに稼働する計画でした(TSMC)。

その後、計画の中身はかなり動いています。第2工場は当初40nm、22/28nm、12/16nm、6/7nmの製造で発表されましたが、2026年2月5日、TSMCのシーシー・ウェイ会長は総理大臣に対し、第2工場で3nm世代を生産すると伝えました(KAB)。日程も動きました。熊本地方経済総合研究所は、2025年10月時点で会長が遅れを認めた一方、県は年内着工の方向に変わりはないとしていたと記録し、第2工場の総投資額を約1兆6,900億円、2工場合計で約3兆円、国の補助を第1工場に最大4,760億円、第2工場に最大7,320億円と整理しています(熊本地方経済総合研究所)。

工程も投資額も日程も、まだ動きます。菊陽町の帯水層と九州の系統の容量は、その計画変更では増えません。

条例が先にあった

熊本県の地下水保全条例は1978年から施行され、2012年3月に改正されています。許可の要否は揚水機の吐出口断面積で決まり、重点地域では19平方センチメートル超、それ以外では125平方センチメートル超が許可対象です。許可を受ける事業者には、地下水の合理的な使用と涵養の取組が求められます(熊本県)。

JASMはこの枠組みの中に入りました。2023年5月16日、JASM・菊陽町・水循環型営農推進協議会・くまもと地下水財団・熊本県の5者で協定を結び、事業に必要な取水量以上の地下水涵養に取り組むことを表明しています(熊本県)。TSMC自身も開所の発表で、使用量の100%を超える地下水を涵養し、稼働開始から100%再生可能エネルギーで運用すると書いています(TSMC)。

涵養の実体は農業です。水田に水を張って地下への浸透を増やす。半導体工場の水収支が、何ヘクタールの水田に水が張られているかで決まる、ということです。

第2工場で取水は約2.6倍になる

熊本地方経済総合研究所によれば、第1工場の取水は年間310万トン、1日平均8,500トン、リサイクル率は75%で、第2工場が稼働すれば年間約800万トンに拡大します。菊陽町の工業用水利用量は2023年の444万トンから、第2工場を含む2027年見通しで1,244万トン、町全体の採取量のおよそ67%を占める計算です(熊本地方経済総合研究所)。

一方、地域全体の採取量は2009年から2023年にかけて約1,200万立方メートル減っています。改正条例は採取量に見合う涵養量の目標を原則10割としており、2024年の計画値は涵養量3,800万立方メートル、採取量1億6,550万立方メートルでした(同)。

原則10割の目標と、地域全体で見た四分の一程度の比率は、矛盾ではありません。目標が縛るのは許可事業者で、採取量には農業も家庭も含まれます。JASMが約束を守れば、合うのはJASMの収支です。帯水層の収支は別に立てる必要があります。企業ごとの約束を積み上げたときに流域が均衡するかどうかは、まだ誰も答えていません。

九州の系統は逆の問題を抱えている

九州電力は川内1・2号機と玄海3・4号機の4基を保有し(九州電力)、全国で最も太陽光の密度が高いエリアでもあります。結果が出力制御です。系統ワーキンググループの2024年度見通しでは、九州の再エネ出力制御率は6.1%と全国で最も高く、中国5.8%、四国4.5%が続きます(RTS Corporation)。

半導体工場の負荷は平坦です。昼も夜も、一年を通じてほぼ一定の電力を使います。春の晴天の昼に太陽光を捨てている系統にとって、同じエリアの巨大な定常負荷は負担であると同時に資産でもあります。日本に足りないのは、発電したその場・その時間に電力を吸収できるものです。蓄電池の系統接続の待ち行列で書いたのと同じ構図が、需要側に現れています。

制約になるのは、数百MWを引く工場と変電所をつなぐ地域内系統です。増強が建屋の完成に間に合うかどうかで決まります。

帳簿が二つある

熊本県は2050年の県内温室効果ガス排出実質ゼロを掲げ、2023年度の排出量を2013年度比28.1%削減と公表しています(熊本県)。

そこにクラスターが載ります。JASMは100%再エネで運用すると言っています。これはマーケット基準のスコープ2、つまり調達契約と証書を消費量に紐づけた主張です。実在する数字で、監査もできます。企業報告はそう作られています。

自治体のインベントリは領域基準です。県内で消費された電力を、系統の平均排出係数で数えます。一社が買った証書は、他の需要家に適用される係数を動かしません。県は2013年度比の削減幅を維持したまま、排出ゼロを報告する工場を抱え、それでも産業部門の電力消費が増えていく、という状態になり得ます。

どちらの数字も正しく計算されており、答えている問いが違います。企業が報告するのは、契約で購入した分です。自治体側の数え方はこれとは別で、域内で消費された電力を系統の平均係数で計上しているだけです。日本の地域脱炭素の議論は、これから主にこの二つの答えの隙間で起きます。GX-ETSは2026年4月1日に義務化フェーズに入り、検証済みの企業排出量が大量に流通し始めた一方で、自治体の数え方は変わっていないからです。

建てる側・出す側にとっての含意

半導体やデータセンターの立地判断は、この10年、土地と補助金と人材の最適化でした。熊本が示した律速はそこにありません。1978年の条例に基づく地下水採取の許可と、変電所の増強です。どちらもリードタイムが年単位で、資本を積んでも短縮できません。

涵養の側にも事業があります。水田湛水は安価で検証もできますが、担い手の農家は高齢化しています。涵養義務が、それを支える農地より長く残る可能性は高い。値付けされていないカウンターパーティ・リスクであり、計測・取りまとめ・帯水層涵養の長期契約という、まだ誰も上手くやっていない仕事でもあります。

自治体の側は、企業の主張と突き合わせられる領域基準の数字を欲しがっています。この突合を売っている事業者を私はまだ見ていません。地味な仕事です。県の2050年目標が産業集積との接触に耐えるかどうかは、たぶんここで決まります。

日本の半導体政策は経済安全保障として語られてきました。北海道のラピダスの2nmがその典型です。熊本では、その政策が実際の流域に降りてきます。取水の許可と変電所の増強は、菊陽町で決まります。


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